眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。

「すいません。銀行が混んでいまして」

嘘を吐きながら、段々と俯いてしまう。
俯いたら、全て泣いて吐き出したはずの涙がまた溜まってきたので唇を噛み締めた。

「早く戻れ」

「申し訳ありませんっ」


受付前に社長が登場したことで注目を浴びていたせいもあり、緊張してしまった私の声は天井まで響くほど大声になってしまう。


「本当だ。君みたいに優秀で仕事も丁寧で、気配りもできて――そしてその場を和やかにしてくれる人がいないと困るだろ」


柔らかくなった眞井さんの言葉に、顔を上げる。

「君は俺の仕事に必要だよ。とても助かっている」
「社長……っ」

「頼みたいことがあるので、至急社長室へ」


「あの」

眞井さんに促されたが、私は首を振る。

「どうした?」

「今度から仕事は片野さんを通してお伝えください。私の上司は片野さんなので、できましたら――」

「その話は後回しだ」

 また不機嫌になった眞井さんが背中を向ける。先にエレベーターの方へ向かう。

「あの、飴、ありがとうございました」

 受付の方にお礼をすると、なぜか悔しそうな顔で私を睨んでいたので首を傾げるしかなかった。
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