眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
駅のトイレで化粧を直し、何もなかったように仕事先へ向かう。
受付の前を横切るとき、崎田さんは居なかった。代わりに小さくて可愛らしい女性が一人にこにこと笑って座っている。
崎田さんは美人でフェロモン系だけど、こちらの受付嬢はふんわりとした可愛いお姫様みたいだった。
こんな人なら眞井さんの横に居ても変じゃないし誰も文句は言わないと思う。
「元気ないですね」
「えっ!? い、いえ。大丈夫ですよ」
「ふふ。良かったら飴どうぞ。崎田さんに何か言われたんでしょ? あの人キツいから」
のど飴を渡された。彼女が動くと気にならない程度の控えめな香水の甘い香りがした。
「もしかして派遣先から何か言われたの?」
小動物みたいに小さな動きでちまちま可愛らしい彼女が心配そうな顔をする。
「きっと崎田さんだよ。派遣の人を目の敵にしてさ、色々言っちゃうんだもの。続かないんだよねえ。こわーい」
いやだよねえ、と甘ったるく話しかけられたけど私は首を振る。
「いえ。崎田さんではないです。それに私の職務怠慢への注意ですので慰めありがとうございます」
深々とお辞儀して立ち去ろうとすると、エレベーターが開く。
そして至上最高に不機嫌オーラを身にまとった眞井さんが此方にやってくる。
「遅かったな」