きみの夏へかける

もういちどゴメンを言おうとしたところで、朔也くんのほうが口を開いた。


「来年に持ち越します」


まっすぐ見つめられて、金縛りにあったみたいに動けなくなってしまう。いっぱいいっぱいの気持ちが薄茶色の瞳から流れこんでくる。

熱い想い。

彼の胸で燃え続けている、夢という炎。


「甲子園、ぜったい行くので。次は光乃さん、その服じゃないですけど……」


そういえば、この青いユニフォームも着おさめだ。


「見ててほしいです。光乃さんに。来年の夏も、今年と同じに」


胸がじんと熱くなる。朔也くんの炎が飛び火のように燃え移り、わたしの胸でくすぶっていた火をふたたび燃えあがらせる。

かけがえのないひとつの夏がいま終わり、そしてまた、新たに始まったのだと思った。


「……うん」


何度も何度もうなずいた。


「見てるよ。ずっと見てる。いっしょに闘うよ。がんばろうね」


小指と小指が絡まる。指きりげんまんをしたのなんて何年ぶりだろう?

朔也くんはとても幸福そうに笑っていた。きっとわたしも同じ顔をしてるんだろうと思った。


「おーい、光乃っ」

「倉田ー!」


とつぜん、遠くのほうから和穂と涼の声。


「集合写真撮るよ!」


どこから調達してきたのか、頭上でゴツいカメラを振りまわしながら和穂が叫んだ。あんまり豪快なので朔也くんと顔を見合わせて笑ってしまう。


「はーいっ」


ふたり同時に返事をして、いっしょに駆けだす。日陰から日向に出るといきなり太陽が容赦なく照りつけた。
世界がいっぺんに明るくなる。景色がいっせいに輝きだす。

同じ日差しを浴びながら、わたしたちはいま、同じ夏を生きている。きっと、来年も。できれば再来年も。その次もそうだったらいいなって勝手なことを思った。


夏が好きだった。大嫌いになった。もういちど、好きになった。

きっと、もっと好きになる。
ぜったい好きになる。

重ねるごとに夏はどんどん輝きを増して、足元に伸びるデコボコ道を照らしていってくれるのだろう。




【きみの夏へかける】END
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