スノーフレークス
「悪いけど今夜は僕の家で泊まってもらうよ」
 澁澤君が背中の私に声をかける。
「どうしてあなたのお寺に? 足の怪我なら自分の家で手当てしてもらえるわ」
「そういうことじゃない。君はあいつらに顔を見られたから念のためうちに来てもらうんだ。親御さんにはうちの親から電話してもらうよ」
「何で氷室さんたちに顔を見られたのがまずいの?」
「今しがた君はそれを見たんだろう? あれがまともな娑婆の沙汰に見えたのか!」
 澁澤君は語気を強める。
「君も知ってのとおり僕の家は寺だ。うちの周りには結界が張ってあるからあいつらには近寄れない」
「まさか、あの人たちが私を襲いにくるっていうわけ?」
「君はあいつらの人殺しを目撃した。襲わないと断言はできない」
 澁澤君は「人殺し」という言葉を使った。
「やっぱり西野のおばあさんは亡くなったのね」
「そうだ。やつらがその人を殺したんだ」
 彼の言葉に私は衝撃を受ける。
「あの人たちがうちのマンションに来たらどうするのよ? 父さんと母さんは襲われないの?」
「それは心配ない。あいつらも君が家に帰ってきていないなら下手に手出しはしないだろう。万が一の場合に備えてうちの弟子にそっちに行ってもらうよ。ワゴンをマンションの前に停めて待機してもらう」
「この寒いのに徹夜で車の中に待機するの? 暖房のためにエンジンをずっとつけっぱなしにしておくつもり? 私たちのためにそこまでする必要はないわ」
「こんな時に変な遠慮はするな」

 澁澤君は私を一旦背中から降ろすと、携帯電話を取り出してお寺の人に連絡した。彼は湧水寺のお弟子さんが私のマンションに向かう手配をしてくれた。
「僕らは真言密教の一派だ。いつも法力の修行を積んでいるからああいう化け物に対応する力があるのさ。だから君の家族のことは心配しないでくれ」
「澁澤君、その『法力』って何なの?」
 聞いたことのない言葉だ。
「法力っていうのは神道でいうところの神通力みたいなものさ。仏道の世界ではそういう術のことを『法力』というんだ。密教系の修行を積んだ者が得られる神通力のようなものさ」
「澁澤君も法力があるの? 九字を切ったりできるわけ?」
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