愛しの許嫁～御曹司の花嫁になります～

「あの、すみません。鷹野部長は……」

「あぁ、まだ会議室にいるんじゃないかな？　ほら、あそこ」

　その男性社員が指差す方向に視線を向ける。そこには、まだ椅子に座って長机に並べられた書類に、ひとりで目を通している鷹野部長の姿があった。

鷹野部長は全員会議室から出て行っても、なかなか席を立とうとしない。私は意を決して開いているドアを軽くノックすると、部屋にそろそろと入っていった。

「あ、あの……」

　ゴクリと大きな息の塊を飲み込んで、私はその人に声をかける。

　鷹野部長は、私の声にまったく見向きもせず、ひたすら書類を見ている。