愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
 レストランをあとにし、ホテルのエントランスを出ると、すっかり雨は止んでいた。

「本当にいいの?」

 窓を開けた運転席から、鷹野部長が心配そうに私を見上げた。

 「いいんです。こちらこそ、美味しかったです。ご馳走様でした。雨も上がったし、余裕で電車で帰れますから」

 急いで仕事に戻らなければならないのに、鷹野部長は私をわざわざ送っていこうと気を遣ってくれた。

 鷹野部長に急に仕事が入ったことは都合がよかった。そう思うと、少し後ろめたい気持ちにもなるけれど、私にはどうしても、実家がもうなくなって貧乏暮らしをしている事実を知られたくなかった。

 後ろ髪を引きつつ、鷹野部長が車を発進させる。見えなくなるまで私はその場で見送って、それから私は、先ほどのすき焼きを思い返しながらひとりで駅に向かった。
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