眠り姫の憂鬱
日本家屋の中は洋風に作り変えられていて、レトロモダンな雰囲気だ。

「将吾さん、美月さん、お待ちしていました。社長秘書の中野です。」と私達の先に立って歩く。

リビングに着くと、

ソファーに座ったご両親と思われる人が待っていた。

「婚約者の美月を連れてきました。」とショウゴさんが言って、私の手を引き、
一緒にご両親の正面のソファーに座らせると、
お手伝いさんの手によって、すぐに紅茶とクッキーの用意が整えられていく。


「初めまして、雨宮 美月と申します。」と小さな声を出すと、

「将吾の父の竹之内です。退院おめでとう。…まだ記憶は戻っていない。と聞いている。
君は将吾と結婚していいのかね。」

「…」私が返事をしないでいると、

「俺は美月以外の女とは結婚しない。」

「まあ、いいだろう。
君が将吾の事を覚えていなくても、将吾の妻になるというなら、
私は反対しない。まあ、後継を生んでくれればなお良いが…
将吾は君にぞっこんのようだから…
君が事故にあった時の将吾の取り乱した様子を見れば許さざるおえない。と私は思っているんだ。
あの場所は会社の近くだったから、多くの社員に見られて噂になっているようだしな。」
と機嫌が悪そうに顔をしかめた。

「あなた、そんな『仕方がない』みたいな言い方は失礼でしょ。
私は将吾がやっと結婚する気になってくれてホッとしてるの。
あなたは真面目だと言う中野さんの評価だったし…
半年前からお付き合いをしているって、
将吾があなたに会った後は穏やかだと遠藤さんにも聞いています。
毎日あなたといてもらえればいつも機嫌が良いって事でしょ。
堅物でいつも眉間にシワを寄せている将吾しか見ていないから、
本当に助かるって思ってるのよ。
これから一緒に生活していく中で将吾を愛する事が出来たら結婚してほしいって私は思っているの。」とお母さんは私に微笑んでくれる。

「…別に私だって反対しているわけじゃない。
知らない男の妻になって後悔してもらっても困る。と言っているだけだ。」とお父さんは横を向いてブツブツ言っている。

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