天使の傷跡
どうしよう、課長の前でおにぎりなんて食べられないよ…!
デスクにつくなり足元に置いたバッグにちらりと目をやる。
その中には朝食用のおにぎりが入れられている。毎日ではないけれど、時々持参しては、誰もいないオフィスでのんびりと食べて時間を過ごす。それが入社してからの朝の過ごし方だった。
少しくらいなら一人の時間があるだろうと思い込んでいた私は、初日という緊張をほぐす意味も兼ねて今日も持って来ていたのだ。
…けれどまさか人がいたとは。
しかも、これから先は直属の上司となるその人が。
…うん、これはさすがに無理。いくらなんでもそこまでの度胸はない。
またお昼にでも食べてしまえばいいや。
『……なんか食いもんの匂いがしないか?」
『えっ?!!!』
そうして自己完結しようとした矢先に掛けられた声に、まさしく心臓が飛び出しそうなほどに驚いた。
そ、そんなに匂った?!!
っていうか初日からおにぎり臭い部下ってどんだけよ…!
『すっ、すみませんっ!! 時間があったら少し食べようとおにぎりを持ってきてしまって…! す、すぐにロッカーにしまってきます!』
『あ、おい、ちょっと待て!!』
慌てて立ち上がってバッグを掴んだ私を課長も慌てて引き止める。
恐る恐る振り返ると、怯える私とは対照的に何故か課長はニコニコと満面の笑みを浮かべていた。