天使の傷跡
「…サンキュ」
「いえいえそんな、なんにもたいしたことは…」
顔を上げながらそこまで言いかけた言葉を呑み込んだ。
____いつの間にか、すぐ目の前に課長の顔があったから。
前屈みになって私と目線を合わせている課長の眼差しは、とても穏やかだった。
…そう。まるで、愛おしいものを見つめているかのような。
「…っ」
自分で自分の思考に動揺してしまう。
愛おしいものって…どんだけ自惚れ思考なのよっ…!
違う、決してそんなつもりで思ったわけじゃ…!
っていうかなんでこんなに距離が近いの?!
こんな、顔一つ分しかないほど至近距離に詰められて。
まさか、まさかとは思うけど…キ、キス…したりなんか…しないよね?!
完全に混乱状態の私をよそに、どんどん課長の顔が近づいてくる。
視線も合わせられず、けれども逃げることすらできない私の顔にやがてふっと影が差す。
う、うそ。嘘でしょう…?
待って、ちょっと待って…!
すぐ目の前で課長の吐息を感じた瞬間、息を詰めてぎゅうっと目を閉じた。