天使の傷跡
「じゃあ明日。福と一緒に待ってるから」
直後、目の前で感じていたはずの吐息が右耳にかかった。
「…………へ?」
何が起きたのかすぐにはわからず、自分でもびっくりするほど気の抜けた声が出てしまった。
「じゃあ午後からも頑張るぞ」
放心状態の私の頭をもう一度くしゃっと撫でると、課長は笑いながらその場を後にした。
立ち去るその姿すら、悔しいほど様になっている。
「な…に…? いまの…」
当然のようにそれに答えてくれる人などいない。
「………み、み…、あ、つい…」
やっとのこと口にできたのはそれだけで。
長い時間をかけてようやく課長の唇が耳に触れたのだと理解した瞬間、燃えるように熱くなった耳を押さえたまま、再び私の体はずるずるとソファーへと沈んでいったのだった。