俺はお前がいいんだよ
俺はお前がいいんだよ

電話が鳴る。それを、五コール以内に取るのが私の仕事だ。


「おはようございます。株式会社フェンス、高井戸(たかいど)がご用件をお伺いいたします」

『似合わねぇ甲高い声だな。俺だ。昨日頼んだ資料、机の上に用意しておけ』


客向けの裏声で出たというのに、出たのはうちの実質NO.2である、桶川恭平(おけがわ きょうへい)さんだった。偉そうな態度ですぐわかる。
俺だ、と言って通じると思っている人間が本当に存在するなんて、ここに入社して初めて知ったよ。


「甲高くて悪かったですねー」


素のアルトの声に戻ると、はは、と小さく笑う声が聞こえる。馬鹿にしたように笑顔が目に浮かぶようだ。


『そっちのほうがよく聞こえるぞ』

「この声だと敬語を忘れてしまいがちなんです」

『なんだそりゃ。とにかく五分以内に用意しておけ』

「えー? そんなすぐできるかな」

『できるかなじゃなくてやれよ』


耳元にテノールの余韻を残して、電話は切られた。

五分以内という時間と電話のノイズから考えて、どうやら地下の駐車場から電話したのだろう。
とすれば、ここに到着するタイミングはエレベーターの込み具合に左右される。

めっちゃ混んでればいいのに、と念を送りつつ、受付スペースから立ち上がった。

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