俺はお前がいいんだよ
「だって、私はソファでいいって言ってるじゃないですか。抱き枕ではないので、勝手にベッドに移動させるのはやめてもらえませんか」
「運んでも気づかないのが悪いんだろうが」
「いやいや、待って。なんで私が悪いみたいになってるんですか」
「女にそんなところで寝かせられねぇだろ。俺がソファで寝るって言ってるじゃねぇか」
「ダメですよ、桶川さんじゃはみ出しちゃうじゃないですか。居候はこっちなんですから、私がソファでいいんです。ジャストサイズだし!」
「だから週末ベッド買いに行こうぜ。もしくは前のアパートを引き払ってもってこればいい」
桶川さんは目をすがめて私を見た後、呆れたようにため息をついた。
「つーか。この状況でお前に手を出さないとか、俺は褒められてもよくないか?」
「まあ、豆狸ですからね。そそられないのはわかります」
「なんだよ、襲っていいのか? 許可があるならいつでも手ぇ出すぞ」
「許可をもらってからそういうことになるのは、襲うとは言いませんね。合意でしょう」
「じゃあ、抱いていいのか」
「……ダメです」
桶川さんは意外に紳士だ。俺様なように見えて、私の心が追いつくのを待ってくれている。
でも私は、度胸があるように見えて、男女関係に関して言えばないのだ。
『俺はお前がいいんだよ』
彼がくれた言葉も、私はまだ、信じきれずにいる。
だって私はちびで童顔の豆狸で、顔もよくて背も高くて頭もいい(しかし口はやや悪い)完璧ハイスペック男に好かれるなんて、あり得ないことなんだもの。
きっと気の迷いだよ。ほら、背の大きい人には、小さいってだけで可愛く見えるものじゃない。
一応告白めいたことはしちゃったけれど、これ以上桶川さんに夢中になって、ぽいっ捨てられたら立ち直れない。
だから私はふたりの間に距離を置きたい。
このまま同居生活を始めちゃってから別れることになんかなったら、今度こそすべてを失って立ち直れなくなってしまう。