俺はお前がいいんだよ



「は? なんて言った?」


金曜日の終業後、私が作ったご飯を残さずたいらげた桶川さんは、茶碗を洗いながらぽそっと言った私の言葉に、意外にもきちんと反応した。


「だから。ここにご厄介になるのは、次のアパートが見つかるまでにします」


最後の茶碗を水で流し、水切りカゴに入れて終了。後は自然乾燥に任せよう。
手を拭きながら、後ろに立っている彼のほうを向く。

相変わらず威圧感のある身長だ。大体、暇なんだったら手伝ってくれればいいのに、他に何かしてるなら気にもならないけど、傍観してるとか一番腹の立つやつじゃん。

そんな私の内心には気づかず、桶川さんは目を細めて冷気を醸し出し始めた。
怖い、寒い。そういう怒り方やめてほしい。


「俺はここに住めっていってるだろ? お前、金ねぇんじゃねーの」


努めて明るく、私は続ける。


「でもほら、前のアパート解約すれば、家賃分は月々浮かせることができるかなって。荷物はその間、貸倉庫に入れればいいし。ごはんも桶川さんがよく奢ってくれるので、早く貯められそうって思うんですよ」

「だったらもう奢んねぇぞ。……つーか、なんだよ急に。なにか不便なのか? なんで急に出ていく気になってんだよ」

「でも、やっぱりいきなり同居するとかおかしいでしょう。私たち付き合い始めたばかりだし、適度な距離ってもんがあると思うんですよ。ずっと一緒にいると、飽きるのが早いって言うじゃないですか」

「ヤラせもしない女のどこに飽きろって言ってんだよ! まだまだ興味深々だっつの」

「もう! エロ発言やめてくださいよー!」


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