幕末の恋と花のかおり【After story】


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「花織!」

聞きなれた声がした。
開いたばかりの瞳に、柔らかい光が差し込んで、それが夢だったと気付く。

「あんたいつまで寝てるの!試合遅刻するよ」

お母さんの怒鳴り声がリビングから届く。

「はーーーーい」

負けないくらいの声で返事をした。

スカートを履こうと、うつむいてからあることに気がついた。

「あれ、私、泣いてたんだ」

ぽたぽたと、水滴が床に落ちる。

「あはは、止まらないや」

一度開いた思い出の扉は、そう簡単に閉まってはくれない。

天井を向いて、1回。2回。
瞬きをして無理矢理に涙をせき止め、ネクタイを結んだ。

ヘアアイロンで髪の毛をまとめて、朝ごはんも食べずに自転車にまたがった。

防具があるから、なかなかスピードは出ない。
それに多少の不便を感じながらも、朝の空気を吸い込んだ。

自転車で十五分。
今日の試合会場の最寄り駅についた。
実は私の家の最寄り駅でもあるんだ。

「おはようございます」

駅に行くと、もう部員はほとんど集合していて、後輩からの台風のような挨拶をもらった。
これぞ運動部、というような感じがして、この挨拶が私は好きだ。

なんだかんだ、どの時代でも私を必要としてくれてる人はいて。
だからこそ、幕末に思い焦がれてしまう自分が憎い。







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