プレシャス～社長と偽りの蜜月～
「おはようございます。社長お迎えに上がりました」

私が事故で休職を余儀なくされた後、秘書に就いた豊永弓香(ﾄﾖﾅｶﾞﾕﾐｶ)さんが雅人を迎えに来た。

私の一番会いたくない相手。

無味乾燥に思える程、整った彫りの深い美人な顔。
私を見つめる瞳は何処か冷たく嫉妬深げ。

私が一体彼女に何をしたのだろうと思うぐらい敵対心に満ちている。

記憶を取り戻したら真っ先に彼女との間に何があったのか探りを入れたいと思っている。

「いってらしゃい。雅人」
何食わぬ顔で雅人を送り出す。

「いってくるよ。朱音」

雅人は私からブリーフケースを受け取ると皆の前で軽く行って来ますのキスを落とした。


「あらあら、未亡人になった私には焼ける光景ね」

母が皮肉気に漏らす。


「申し訳ありません」

「いいのよ。貴方達は新婚さんだもんね・・・」

「社長、お急ぎ下さい」

豊永さんは眉一つも動かさず、無表情で雅人を急かした。

「今夜は遅くなるから・・・もしかしたらホテルに泊まるかもしれないけど。ゴメンな」

「うん。いってらしゃい」
私は雅人に手を振り、後姿を笑顔で見送った。

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