恋の人、愛の人。

「色々あったのは解った。まず、後輩の性別」

「男です」

「…だよな」

「はい」

「キスか…当然、容赦なく唇にだよな?」

「う゛ー、はい…。それが…知らない内に。不覚にも全く気がつかなかったから、どうやらぐっすり寝てるところを…だと思います」

「……はぁ、だろうな。後輩とはいえ、男を泊めたりするからだ。
いいよ、続けて?」

「あ、はい。えっと、写真を取り出した部長に呼ばれて、部長室で話をしていました」

「どんな?」

「その写真の事で、社内恋愛は禁止ではないけど、写真の棄て方は駄目だって。くしゃくしゃに丸めた程度で棄てたので」

「まあ、そうだな。それは梨薫ちゃん軽はずみだよ」

「そうでしたね」

「それで?」

「…うん。くしゃくしゃになっていたから、部長が伸ばしながら見せていて、二つに破けちゃったんです。
私もそんな…彼でもない人との写真、シュレッダーに掛けますって話をしているところに、いきなり奥様が入って来られて。何だか丁度写真の上で手も重なってしまってて」

「なんで会社にいきなり奥様登場なんだ?来ないといけない用でもあったのかな」

「そこは詳しくは知らないです。
部長が私と二人で居た事、写真を取り返そうと二人の距離も近かった事、偶然手が触れ合っていた事、またその写真が、私と部長の…そういうコトの一部の写真だと瞬時に思われたみたいで、いきなり、『この泥棒猫〜』て。パ〜ンですよ」

されたように手を振り抜いて見せた。

「わ、痛そう…とんだ災難だったな。俺だってそこまでは…女に殴られた事ないのに」

陽佑さんは頬に手を当てて摩った。修羅場的な経験はあるって事かな…。

「はぁ、…でもグーじゃなくてまだ良かったと思っておきます。…その写真も、ぐしゃぐしゃにしてたから色もまだらになってて、ぱっと見、判別も無理っぽかったんですよね」

「しかし、だからってだよ?いきなり泥棒猫は無いよな。事情も解んないのに二人で居ただけで妬いたのか?…部長さんに、そんな影でもあったのかな…だからいきなり会社に来た…」

「…まあ。誤解だったから、落ち着いたら奥様は渋々謝ってくれましたけど。
どうやら二人は長く別居されてるみたいで…、中々奥様が離婚に応じないようで、離婚調停ていうんですか?それが長引いているらしいんです。
あ、これは奥様が帰られてからですけど、部長から少し聞いたんです」

「そんな状態の奥さんは、まだ…そうか、別れたくないから…何か部長さんの弱みとか探ってるって事なのかな…。別れるならタダでは別れてあげないって。危うく、でっち上げられるとこだったかもな?」

「んー。だから、もし、誰かそんな女性が社内に居たら…て事ですかね。居たらラッキー?何か尻尾を掴もうとして、会社にまで…ですかね」

「堪らんな、そんな事されちゃ。離婚なんて…そんな調子じゃ、同意は無理なんじゃないのか、いつまで経ってもな」

「さぁ…離婚原因にもよるんじゃ無いですかね。そこは、何きっかけか知りませんけど。あ、子供さんは居ないって事でした。
結局、最終的には離婚に至るには、金銭的な事で折り合いがつかないとって…そこなんですかね」

「んー、解んないけど、拗れそうな雰囲気だよな。
…解ったぞ。どうせその部長さんて“素敵”なんだろ。
あ、まだあった」

「はい?」
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