恋の人、愛の人。
「どれ、あ〜んしてみて…」
「え、あ〜ん?いいですよ、そんな」
口の中まで見るつもりなんだ。
「いいから。そう、あ~んだ。大きく…あ〜んして」
「こ、こう…ですか?」
恥ずかしげもなく、言われるがまま開けた。しかも、あ〜んて言いながらだ。
「ん…そう。あんまり明るくないから、よく…見えないけど…中は…んー、切れてはない…みたいだな。大丈夫そうだな」
また両手を頬に当て、覗くようにして見られた。傷が無いか見て、確認したかったんですね。
「※×%%#$≠?(もういいですか?)」
「あ、ごめんごめん、もういいぞ。
大丈夫だろうけど、念の為、アルコールは止めておくか、な?」
「…はい。…はぁ」
「烏龍茶でも飲むか」
「んー、折角なんで、せめてノンアルの何かにしてください」
「フ、はいはい。アルコール無しのやけ酒か?」
クランベリーとグレープフルーツを合わせた。
「それで…、こんな可愛い梨薫ちゃんを引っぱ叩いたって人は誰なの。…ほいどうぞ」
「あ、え?…あ、これは?」
「これか?これはバージンブリーズだよ。ウォッカが入ればシーブリーズ。アルコールが無きゃただの爽やかなジュースだ」
色が綺麗だったからグラスをちょっとだけ翳して透かして見てから飲んだ。
「…本当だ。爽やか…。
あ、部長の奥様にです…」
「おわっ。えらいとこから睨まれたもんだな」
「睨まれたとか違います。だから、それは誤解ですから」
「その誤解って、何…」
「…んん。朝から別件で…災難で…。それも、元を辿れば昨夜の事からで…」
「はぁあ?まさか、帰りに何かあったんじゃ…」
「それはちょっと違います。部屋に帰ってからですかね」
「部屋?それだって何かあったって事なんだろ?…何だ…部屋の前に変質者でも居て、こう、ばぁっと、コートの前でも広げられたか。中は裸で、ナニを見せられちゃったとか」
「ちが、もう…違います…止めてください。流石にそんな事は無いです。事件じゃないですか、それだったら。本気で通報してます、私、目茶苦茶にバッグを振り回して引っ叩いてますよ。…はぁ。
そうではなくて…帰ったら後輩が居たんです。
部屋を追い出されたから泊めて欲しいって、それでまあ…仕方なくというか、駄目だって言ったのに、結局何だか泊めてしまって。
起きたらもう居なくて、会社に行ったら大きくプリントした写真を見せられて…。それが…、うちに泊めてる間に、キスされてる写真で。
それを棄てたんですよ、ごみ箱に。
そしたら、それを拾ったというか…、捨てるのを見てたのか、取り出したのが部長で。
部長は毎朝廊下で会って挨拶するから…私達のやり取りも見られてたんだと思います」
「ちょっと、ストップ、待った。まずそこまでだ。ところどころ、確認」
「あ、はい」