恋の人、愛の人。
「今日はもう時間も時間ですから、お腹を軽く満たすくらいで、雑炊とか、お茶漬けとかでどうですか?」
「そうだな…。近くに知ってる店でもあるのかな?」
「店というか、…料亭とかの話ではありません…そうではなくて、うちです。
うちで良かったら、さらっと食べてお帰りになりますか?ご飯もありますから本当、直ぐに出来ますけど」
…。
「私が部屋にお邪魔しても構わないってことかな…」
「はい、勿論です。作ってお持ち帰りなんて…ふやけてしまいますよ?」
何の警戒もない。そこは“部長”だから。
「いや、そういう事ではない…しかし」
「特に気を遣って頂く物でもないです。ちなみに鮭の雑炊を今考えています」
「いや、そういう事ではないんだが…本当にいいのか?」
「はい。嫌いでなければ」
「嫌いではない…そうではなくてだな……ん、では、お邪魔する」
「はい。では、車は端の枠に入れてくださいますか?あ、右の方です」
「ん、解った」
「私、戻って少しでも先に支度し始めてますから。あ、部屋は…」
「大丈夫だ。解ってる」
「あ、は、い。鍵は開けておきますから、入って来てください」
「…解った」
恐るべき部長…。部屋まで知ってるんだ。考えるとちょっと恐すぎる。でも今はそこに触れている場合ではない。一刻でも早く戻って作らなきゃ。長く待たせる訳にはいかない。早く食べてもらって、少しでも早く帰って休めるようにしないと。
部長が車に乗り込むのを確認して急いで部屋に戻った。
小さい土鍋にお水とコンソメを入れ沸かし、ご飯を軽く洗って入れ沸かした。
焼いた鮭があるから楽勝。鮭雑炊なら直ぐなのよ。葱は刻まないとね。あと、…卵。
カチャ。ゴトゴト。重量感のある靴の音。あ、来たみたい。ゆっくり目に来てくれたようね。
「部長〜?どうぞ~。狭いですけど、こっちにお願いします」
「ん、ああ。ではお邪魔するよ…」
もう沸き上がっていた。卵を溶き、入れ、さらに葱を入れ、蓋をして火を止めた。
「本当に簡単な物ですが。もうほぼ出来ました。
あ、どうぞ掛けてください」
入ってきた部長にダイニングの椅子を勧めた。