恋の人、愛の人。
「まだそれだけだっていう事。この行為にドキドキしているだけだと思うの。こんな事されたら、誰だってドキドキしちゃうでしょ?」
「…」
「座って?」
腕を解かれ椅子を引いて座らされた。
梨薫さんはご飯を装っている。
俺は立ち上がって、性懲りもなくまた後ろから抱きしめた。
「あ、危ない…黒埼君?どうして…」
「嫌ならドキドキしない。無理なら突き飛ばすはずだ。…嫌ですか?これ。嫌じゃないですよね?こんなにドキドキしてるのに」
…。
「冷静になろうとしないでください。好きは衝動だ…」
あ、黒埼君…。身体を回され、また正面から抱きしめられた。
「…これは?ドキドキしますか?しますよね?…してる。ドクドクしてる胸の音は、梨薫さんよりずっと正直だ…」
…。
「人畜無害の男だなんて思わないで欲しい…。梨薫さんが俺を、…そういう対象としてしか見れない事は、俺にだって解ってます。普段から…そういう関わり方だって事、誰より俺が一番解ってますから」
「黒埼君…」
「だけど、この気持ちはどうしようもない…ずっとずっと昔から、俺は…梨薫さんの事が好きなんです。貴女が俺を知らない時から、俺は貴女が好きだった。俺は貴女を知っていた」
「…どういう事?」
…。
「……昔から、好きだったって事です…。
顔、洗って来ます」