恋の人、愛の人。
ずっと好きだったとか、昔から好きだったとか、言ってる言葉の意味は解る。
だけど、私が知らない時の黒埼君が私を好きだった?…。それが解らない。
初めから同じ会社で、黒埼君は転職でもない。新卒入社だ。
学生の頃の事?私が大学生の頃は黒埼君は中学生とか高校生…。普通に接点は無い。
駅とかカフェとか、どこかで何か印象に残る事でも起きていたのだろうか。
反対に黒埼君が大学生の頃は、私はとうに社会人で、それも接点なんかないはず。
「ご飯、頂きます。梨薫さんのご飯、食べられるチャンスですから」
顔を洗って髭も剃り、戻った黒埼君は平然とではないだろうけど、そう言って腰掛けた。
途中になっていたご飯を装って置いた。
「黒埼君…さっきの…」
「頂きます。その事は今は話しません。もう少し後にさせてください。後って、時間ではなく日数の事ですから。…頂きます」
「…うん、解った。あのね、…良かったら、うちに泊まる?」
「…え?ゴホッ…コホ」
「あ、ごめんごめん、大丈夫?
……毎日、落ち着かないでしょ?私も、私の立場で落ち着かないのよ。解るでしょ?
帰って来たら、また黒埼君が部屋に来るんじゃないかって思いながら居なきゃいけない。…思う壷?
泊まるっていうのは勿論、泊めるだけよ?他に何もしない事が大前提。それが守れるならいいわよ」
…。
「難しい?」
「正直、キツイです。何もしないって、“何”は、どこまでの事ですか?それによります」
「あ。理性の問題ね、あれはいい、これは駄目って言うより、恋人だったらするような事、それをしないと約束してくれるなら泊まっていいわよ」
「解りました」
箸を置くと、がたっと立ち上がった。
「な、何?」