恋の人、愛の人。
「…稜って、人ですか?」
「え?うん、そうよ。え?どうして知ってるの?」
「俺、知ってます」
「…どうして?」
…。
「梨薫さん、稜ー!て叫んでるからです」
「え?私?…」
「…夜中です、多分、夢を見て、それででしょ。呼んで、それで目が覚めてるんじゃないですかね」
「はぁ、ごめん。聞こえるくらい大きい声出してたのか…ごめんね、驚かせてるんだね…」
その後、いつも小さく呟いて泣いてるのも知ってます。俺…声がした時はこっそり窺ってますから。
「別に。そんなの、夢は自分じゃコントロール出来ない事だろうし。呼びたくなるような内容なんだろうし」
「うん…そうなの。最近ね、何か言ってるのに、多分、それは大事な事のような気がするんだけど、そこになると聞こえなくなるの。すーっと暗くなって、見てる夢の映像が消えていくのよね。
…もっと前にね、不思議な夢を見るって話をしたら、…フフ、軽く突っ込まれちゃった事があったの。夢なんだから何でもありだろって。
その通りよね。だって夢だから。どんなに不可解でも夢だから…、夢なのよ…。もう、どんな夢を見たところで、稜とはもう終わった事なのよね…。
あ、ごめん、こんな話。
未練があるとかじゃないのよ?未練も何も、終わった事だから。
あー、これでめでたしめでたし?ではないか。ハハハ。
昔話はおしまい…」
「梨薫さん、俺は…その…」
「ねえ?今夜、録り溜めてあるDVD観たいの。映画なんだけど観ていい?もうずっと忘れてて…思い出したから。リビング、ソファーのエリア辺り、占拠してもいい?」
「いいですよ、どうぞ。ここは梨薫さんちなんだから」
「でも今はこのエリアは黒埼君のエリアだから、ちゃんと許可貰わなくちゃ。あ、ねえ?うちに来てから、レコーダーにAVのDVDとか、入れっぱなしにしてないでしょうね…」
「ぶっ、は…何言ってるんですか、してませんよ。観る訳ない…そんな…ヘッドホンも無しに、危険を冒してまでこそこそ観たりしませんよ、この状況で」
「あ、そうか、そうよね。そのままだと音、洩れちゃうか」
「その場合は映像のみ、消音するでしょ。…あ、ゔ…」
「フフ。…アハハ。嫌らしい〜。朝、消音状態だったらそういう事だと思っておく〜」
「そんな事してませんて。…何をわざわざ…そんな事…隣に梨薫さんが寝てるのに…するんですか」
「な〜に?聞こえませんけど?」
「持って来てないです。借りて来てもないです」
「持ってるんだ」
…。
「持ってないです、俺は」
「はいはい。先にお風呂入って?」
「観てませんからね…もう…後片付け、します」
「いいのいいの。これは私の仕事。だから黒埼君はお風呂に入るのが仕事。はい、行って」
手にしていた食器を取り上げられた。
「…はい、有り難うございます。…ではお先に」
「はい、遠慮なくどうぞ」