秘め恋
「ファミレスに決まりだね。夜もやってるしちょうどいい」
行きと違い、真っ暗な夜の車道にはマサの車しかいなかった。小さく音楽をかけていても、車内には車の走行音が大きく聞こえる。
「マサは運転うまいね。ホントに初心者?」
「ありがと。これでも免許取り立てだよ。狭い道で対向車来るとこわいし」
「それ分かるー。初心者の頃、私も何度停止して対向車に道を譲ったことか。すれ違うことすらできなくてさ」
「そうなるよね。アオイも免許取ったの高校卒業後?」
「そうだよ。あの頃は……」
ふいにアオイの言葉が途切れた。沈黙の中に、旦那に関する思いが漂っているのをマサは肌で感じた。旦那の話には興味がある。アオイがどんな男を好きになって結婚までする気になったのか聞いてみたい。だが、同じくらい聞きたくないとも思う。アオイの口からノロケ話などされたら打ちのめされそうだ。
マサの察した通り、アオイの脳裏には仁のことが巡っていた。
高校を卒業してすぐの春休み中、毎日のように自動車学校に通いすぐに免許を取った。その頃は仁のこ とを知らなかった。
「あの頃は……。本当の恋なんてまだ知らなくて、今とは全然違う自分だったなぁ」
「今の旦那がアオイの初恋の人なんだっけ」
「うん。出会った時からなぜか妙に気になって、だけどそれは玲奈の…親友の彼氏だからなんだって思ってたけど、あの人に優しくされて、その優しさが自分にだけ向けられたらいいのにって思い始めて。玲奈の彼氏なんだからダメだって分かってたのに……」
「奪いたいほど好きになってた……?」
マサの問いかけに、アオイはうなずいた。
当時玲奈と付き合っていた仁への思いを募らせた末、何度も諦めることを考えると同時に、頭の中で告白のシミュレーションをした。振られるのが分かりきっていた恋だった。でも、自分の持つ物全てを掛けて仁にぶつかってみたら、事は思い通りに運んで彼と結婚までできた。自分の両親も仁を気に入ってくれている。