あの日みた月を君も
階段の下から母が叫ぶ。

「隣の古田のおばちゃんからケーキ頂いてるの。着がえたら下りてらっしゃい!」

「はぁい。」

母とはしゃべりたくないけど、ケーキは食べたい。

とりあえずケーキを選ぶことにした。

鞄を勉強机の上にドンと置く。

そのまま大の字になってベッドに仰向けに寝転んだ。

天井ってこんなに低かったっけ。

天井がぼんやりと揺れ出した。

体が金縛りにあったみたいに動かない。

ゆっくりと目を閉じた。



いつの間にか寝てしまった。


時々、同じ夢を見る。

とりわけ疲れてる時。


必死に誰かを捜してる。

ここは、どこだろう。

暗くて、あまり何も見えない。

探しても探しても、その人の姿はなかなか見つからなくて。

いつの間にか私は泣いているんだ。

少し周りが明るくなってきた時、ふと、足下に探していた人の腕だけが見える。

「どうして?」

って私は叫んでその人の手を握りしめるの。

顔ははっきりわからない。

だんだんと空が白んでくる。

その人の顔を見るんだけど、ぼんやりしていてわからない。

顔のはっきりしないその人がとても小さな声で言った。

「月がきれいだ。」

空を見上げると白んだ月がうっすらと見える。

握っていた手がだんだんと精気を失っていく。

「待って!」

そう叫んで慌てて、その人の体を抱きしめた。


いつもそこで目が覚める。

夢なのに涙があふれていた。

目が覚めてもしばらく涙が止まらない。

どれくらい時間が経ったんだろう。

母が階段を上がってくる音が聞こえた。



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