あの日みた月を君も
卒業して以来、アユミと連絡を取ることはなかった。

気にならなかったと言えば嘘だけど、恐らく誰かの妻になっているであろうアユミに敢えて連絡するのは不謹慎だと思っていたから。

そんな時、久しぶりに山道マサキから連絡があった。

マサキといえば、東方新聞社に入社して、バリバリ記者として働いているかつての親友。

記者と言えば昼夜問わず、何かあればその場にかけつけて取材しなければならない立場だからなかなかゆっくり時間をとって会うということもなかった。

たまに、ごくたまに出来た休日に、しばしば連絡がある程度。

マサキと会うのは、もう1年ぶりくらいだろうか。

仕事帰り、駅前の飲み屋で待ち合わせた。

先についたのは僕だった。

カウンター席について、とりあえずお冷やを飲みながらマサキを待つ。

待ち合わせの時刻より20分ほど遅れてマサキがやってきた。

「待たせたな。」

マサキは上着を脱ぎながら、慌ただしく僕の隣に腰掛けた。

「おいおい、水飲んでんのかよ。先に始めといてくれたらよかったのに。悪かったな。」

腰掛けた途端、僕のお冷やを見てすかさず突っ込んだ。

相変わらず騒々しい奴だ。

学生の頃からちっとも変わっていないマサキに気持ちがゆるむ。

「久しぶりに会うんだし、やっぱり最初に飲む酒は乾杯して始めたかったんだ。」

僕はそう言うと、カウンター越しにビール1本とグラスを二つ頼んだ。

グラスになみなみとビールを注ぐ。

泡がこぼれそうになって、あわてて口ですくった。

「とりあえず、久しぶりの再会に乾杯!」

マサキは楽しげに言うと、グラスを合わせてきた。

「乾杯。」

僕もマサキより少し小さな声で言った。


< 53 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop