あの日みた月を君も
大丈夫です、と言ったものの、最初に社長からその話を受けた時とは自分の心境がかなり変わっていることに気づく。

僕は、一体どうしようっていうんだ。

マサキからアユミの話を聞いてしまってから、毎晩のように一人晩酌をしながらアユミを思い出していた。

研究室からの帰り道、二人で見上げた夜空に浮かぶ白い月を。

あの時は、アユミも僕もその先の未来がこんな状況になってるなんて思いもしなかった。

ただ、僕はアユミをあきらめようと必死だったし、アユミは夢をあきらめて父親に勧められた相手と結婚しなければならないことに気持ちを向けていたと思う。

どうして、あの時僕は少しでも自分の気持ちをアユミに伝えられなかったんだろう。

もし伝えていたら、今、この状況は少しは変わっていたかもしれないのに。

開けた窓の外にぼんやりと霞んだ月を見ながら、カップ酒を一口飲んだ。

全く乗り気のしない日曜日が刻々と迫ってきていた。

とにかく、社長の娘さんと一度デートするっていうのは、僕が承諾した話だ。

今更断ることもできない。

窓を静かに閉めた。


土曜の夜は色々なことを考えていて、なかなか寝付けなかった。

朝起きると、目のしたに隈ができているわ、髪の毛はぼさぼさで見られたもんじゃない。

待ち合わせの時間に遅れないよう、あわてて顔を洗い髪をとかした。

初任給で買った革のバックを小脇に抱えて、玄関を出る。

外は、自分の気持ちとは裏腹に快晴だった。

< 65 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop