あの日みた月を君も
「俺はさ、ママと約束したんだ。必ず、ママのお母さんの手がかりを見つけて知らせるよって。それがどんな結果だったとしても、探してみせるってさ。」

マサキの横顔は、日々の激務のせいか少しやつれたようにも見えたけれど、その目の光はとても強かった。

「だから、俺はママのお母さんの手がかりを見つけた時、しっかりとママと向き合うつもりだ。」

「それって?」

「俺は、ママを愛してるから。」

愛。

そんな言葉、簡単に口に出せる言葉ではなかった。

なのに、マサキはあっさりと、恥ずかし気もなくさらっと口にした。

色んな覚悟がそこに秘められてるような、強い思いが言わせてるんだろうか。

僕にはとても、そんな言葉言えない。

ミユキにも、アユミにも。

「見つかるといいな。」

そう言ったとき、

「お待たせ。」

と言って明るい声でママが僕達の前に熱々の厚焼き卵を置いた。

卵の横には大根おろしと醤油が添えられていた。

「うわ、うまそ。いただきます!」

マサキは、さっきとは打ってかわって、いつもの調子で箸を割った。

厚焼き卵を箸で半分に分けると、その半分に容赦なくかぶりついた。

「あちっ。」

「あはは、ばかねぇ。熱いに決まってるじゃない。」

ママは楽しそうにそんなマサキを見て笑った。

僕も笑った。

「でも、うまいよ、本当にママの厚焼きは最高だね。」

マサキは口いっぱいに卵を頬ばりながら言った。

ママは嬉しそうに笑いながら、また調理場に戻っていった。

僕はミユキの作ってくれた料理に、こんな風においしいって言ってやったことあっただろうか。

こんなに楽しく一緒に食べたことがあったんだろうか。

アユミとなら。

そう思いかけて、胸がくっと詰まった。

僕が決着つけなければいけないことは、僕自身が一番よくわかっていた。

でも、どのタイミングでどういう形ですべきなのか、正直わからない。

マサキが厚焼きを頬ばる姿を見ながら、現実に浮かれてられない自分を取り戻していた。
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