あの日みた月を君も
なんなんだろ。

突然に。

カスミがトイレから戻ってきた。

私の耳元でこそこそっと「例の件お願いね。」と言ってきた。

私はカスミにも何も言わず頷いた。

今日例の機会作るようヒロに聞いてみるわよ。

って言いそうになったけど、言わなかった。

下校のチャイムがなり、鞄を持って席を立つ。

「バイバイ、またね。」

カスミはそう言うと、颯爽と教室を出て行った。

カスミとは、あれだけよく教室でしゃべるわりに、一緒に帰ったことない。

カスミが放課後何してるのか、そんな話聞いたこともなければお互い話したこともなかった。

それなのに、自分の恋の手伝いを強要してくるとは。

今回限りでそういう手伝いもやめよ。

いつものように1人で靴箱に急いだ。

ヒロの姿はもうなかった。

駅までの道のり、少し急ぎ足で向かう。

別に急ぐ必要はないんだけど。

もうヒロがカフェに到着してるんなら、ってちょっとした気遣い。

カスミ、まさかこのカフェにいないよね?

カフェの入り口で、周囲を見回した。

同じ高校の制服の女子が何人か歩いていたけど、カスミの姿はなかった。

そっとカフェの扉を開けた。

カウンターメインのわりと狭い店内だから、すぐにヒロの姿を見つけた。

一番奥の2人がけのテーブルに座って、単行本を読んでいた。

なんか、っぽいな。って思わずその背中を見て笑ってしまう。

ヒロの背中に「お待たせ。」って声をかけた。

背中が少し驚いて飛び跳ねる。

「あー、びっくりした。」

ヒロが少し頬を紅潮させて私の方に顔を向けた。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない?来るのわかってんだから。」

「まぁ、そうだけど。今どっぷり小説の中に浸ってたからさ。」

ヒロはそう言うと、単行本にしおりを挟んで閉じた。
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