愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~

「あ、そうだ。有森、今日はCEOがここに来るらしいぞ。決算会議だってさ」
「へぇ。そうですか」

思い出したように言う山内さんに、生返事をする。
そんな雲の上にいるようなお偉いさんになんて興味はない。
ここに来ると聞いたところで、見かけることも顔を合わせたことも、未だかつてないのだから。

一年ほど前に、現CEOの父であった前CEOが急逝した。
息子であった現CEOが父の後を引き継ぎ就任したが、彼はまだ三十歳だ。
若きCEOは、月島奏多。グループの総取締役として君臨する。
マスコミや世の中を賑わせている、時の人だ。

最高経営責任者の交代という事態で、我々従業員もどうなることかと思っていたが、彼は天性の才能を持ち合わせていたのだろう。グループの総売り上げは、これまでにないほどに、うなぎ上りとなっていた。

私の勤める『月島建材』は、かつての財閥であった月島グループが経営する、月島ホールディングスの数ある子会社の中のひとつだ。
海斗が勤める月島住建も、月島ホールディングスの傘下だが、規模としてはこことは桁違いの大手である。

向こうは巨大なビルや、無数の建築物を世界中に建てているが、こちらでは主に、国内における建築部品や材料を扱っている。支店の数も、国内に七か所しかない。
だが月島グループの中では小規模とはいえ、私にとっては、世界に名を轟かす月島グループの子会社に、思いがけず入社できたことは奇跡に近い。
月島グループに入社するという、私が成し遂げた快挙に、当時はうちの親戚中が驚いたのだから。



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