愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
軽くため息をついて、私は席を立った。

海斗との結婚を阻止すると意気込んではみたが、もちろん策があるわけではなかった。
もしかすると本当にこのまま、彼と結婚することになるのかも。
もしもそうなれば、いつか本当に海斗のことを好きになる日が来るのだろうか。現段階では想像もつかないけれど、結局そうなるのならば、それでもいいような気さえしてくる。

化粧室で鏡の中の自分を見つめる。
特別美人でもないけれど、そんなにひどい容姿でもない。普通の女性だと思う。身なりにだって、私なりに気を使っている。
少なくとも、告白した瞬間に顔を歪めて断られるほどではない。

だけど海斗が言うように、こんな私を好きになる人は現れないかもしれない。

化粧室から出て、今日の業務に取りかかろうと先を急ぐ。とりあえず今は、仕事に没頭するしかない。後ろ向きな考えを、今すぐに払拭したい。
集中しているうちに、きっと悩みなんて忘れるはずだ。
営業アシスタントの仕事は、思いのほか自分に向いている。ペアである山内さんの仕事の受注や業務をアシストするのが主な仕事だ。
これを退屈だと思う人もいるかもしれないが、淡々とした内容の業務は、表に出ることが苦手な私にとってありがたかった。

廊下の角を曲がった先にある、営業課のオフィスめがけて急ぎ足になる。

「うわっ!」
「きゃっ!」

突然で、一瞬の出来事だった。

廊下を曲がった瞬間に、反対側から歩いてきた男性と派手にぶつかってしまった。




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