愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
別れることが奏多さんのためになることも、会社にとって必要であることも納得している。

だけど心が勝手に、彼を求める。
外せないでいた指輪を、そっと薬指から抜いて見つめる。
その裏側に掘ってある文字に気づき、涙を拭って目を凝らした。

『JUST FOR YOU / K TO R』

君のために。
シンプルな彼らしいメッセージ。
さらに溢れる涙を止めることもできずに、指輪を握りしめる。

過酷な運命を背負った御曹司との恋は、あっという間に散っていった。
周りに決められたものに囲まれ、自分の意思など存在しないと話した彼の、淋しげな笑顔を思い返す。

どうしたら彼を救えたのか、私にわかるはずなどない。

海斗が私のそばまでやってきた。
彼には、婚約破棄になったとだけ伝えてある。
くわしく聞いてくることなどない彼の配慮がありがたかった。

「逃した魚は大きかったな。お前にしては、いい夢が見れてよかったんじゃないか。上等だよ」

無理に冗談を言おうとする海斗に、顔を上げないままで頷くことしかできない。





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