愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
私の呟きに、ふたりもそちらを見る。

「誰?見ない顔だな」
龍さんが私に言うが、驚きでなにも言えなかった。

「スペシャルゲスト。今日のパーティの、もうひとつの目的だよ」

奏多さんが、私の代わりに答える。

「近いうちに挨拶すると言ったよね?まずは彼をなんとかしないと、君をさらわれても困るから」

「だからって……どうしてここに」

展開が急すぎて、心の準備ができていない。
近いうちに、海斗とは婚約破棄することになると漠然と思ってはいたが、それがまさか、今だなんて。

「海外出張は……」

「今日のために、彼だけ帰国してもらった。業務に影響がないよう、配慮したから」

奏多さんにできないことはない。
彼が私たちの勤める会社のトップなのだから。

「ねえ、話が見えないんだけど。誰なんだよ」

しびれを切らしたように、龍さんが言う。

「彼は……瑠衣の幼い頃からの婚約者。偶然にも月島にいた。俺にとっては好都合だったよ。こうして最高の別れを演出できる」

奏多さんがにっこりと笑うのを、龍さんとふたりで見る。

「マジかよ。お前、彼の婚約者を奪ったわけ?なんなの、その熱い展開は。らしくねぇ。黙っていても、女が群がってくるくせに。なんでよりによって、人のものを」

先ほどから面白がっていた龍さんだったが、さすがに笑うのをやめた。

「俺は欲しいものはすべて手に入れる。それが誰かのものであっても、奪えばいいだけだ。お前もそう思うだろ」

奏多さんの呟きに、龍さんはなにも言わなかった。

本当は、彼が欲しいものは私ではない。
未来に渡っての、結婚にとらわれたりはしない自由だ。龍さんはもちろん、事実を知りはしない。

ふたりの会話を聞きながら私は、ただ海斗の鋭く光る視線を見つめていた。





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