愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~

奏多さんは、待っていましたとばかりに、にっこりと余裕のある笑みを浮かべた。

「こんなに大がかりなイベントを、意味もなくやるほど、あいにく俺は暇じゃないんだ。俺は君の婚約者である瑠衣と、結婚の約束をしてる」

海斗は奏多さんを黙って睨むように見ている。
彼が今、なにを感じているのか、その表情から読み取ることはできない。

「いいだろう。回りくどいのは嫌いなんだ。単刀直入に言うよ。長澤くん。彼女との結婚を、白紙に戻してもらいたい」

はっきりと告げた奏多さんの顔からは、もう笑みは消えている。

奏多さんの言葉になにも言わない海斗を、私は食い入るように見つめていた。

どうしてすぐに返事をしないのだろう。
私と奏多さんが婚約し、海斗との関係を清算することは、海斗にとっても好都合なはずだ。
一言そうする、と言うだけで、嫌々だった私との結婚から逃れられるのに。

好きでもない相手と無理やり結婚させられる運命を、ともに背負ってきたのだ。
ずるずると引き延ばしてきたのは、婚約破棄をするタイミングと、両親に説明する理由がなかっただけ。
これまでも、彼は常に、私に対する不満を口にしていたのだから。

「婚約解消は……できません」

海斗がポツリと言う。
私は目を見開いた。

< 90 / 184 >

この作品をシェア

pagetop