真夜中メリーゴーランド


二個年上のお兄ちゃんは、今年の春大学生になった。中・高とずっと野球をやっていた。部活が終わるといつもまっすぐ家に帰ってきていた兄だけれど、大学に入ってからはバイトとサークルで忙しく、夕飯時に家にいるのはめずらしい。ずっと坊主頭だったのに、髪を伸ばしてパーマをかけて、片耳にはピアスの穴があいている。

そんな兄を見ると、私も現実を思い知らされてしまうのだ。夢を追い求めることが、どれだけ馬鹿げたことかって。


「いただきます」


私とお兄ちゃんは横並び、その真正面にお母さんが座る。私は、お母さんとふたりで夕飯を食べるより、お兄ちゃんと三人のほうがずっといい。でも、お母さんはお兄ちゃんの顔を見ようとはしない。いつも決まって、「その髪、どうにかしたら」とため息をつく。

お兄ちゃんはそれに返事をしない。というか、お母さんとお兄ちゃんはほとんど会話をしない。お兄ちゃんが大学受験に失敗してから、ずっとこうだ。

黙ってご飯を食べるお兄ちゃんと、ため息をつくお母さんと、息を殺す私。大好きだったハンバーグも、味がしない。

しばらくしてお兄ちゃんが「ごちそうさま」と席を立つ。私も慌ててご飯をかき込むけれど、お兄ちゃんはそんなことを気にする様子もなくリビングから出ていってしまう。この、お母さんとふたりっきりになる時間が、私は一番いやなのに。


「本当に態度が悪いわね」


私はうなずくことも、否定することもしない。


「ただでさえあんな大学に通ってるっていうのに、どうしてあんな頭の悪そうな格好しかできないのかしら」


お母さんのため息を、私は受け止めきれない。

やがて席を立って食器を洗い始めるお母さんの姿を見ながら思う。きっと、お母さんは私に言い聞かせているんだろう、と。

ああならないように勉強しなさい、って。好きなことをやり続けた結果があれよ、って。大好きな野球を最後までやめなかったお兄ちゃんへのあてつけみたいに。



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