真夜中メリーゴーランド
◆◇◆
ぼんやりとした意識が段々とはっきりしてくる。にじんだ視界の中で、真っ白なその世界に誰かが佇んでいるのを確認してハッと目を開いた。
ここはどこだろう、と考える暇もなかった。見覚えがあるのだ。なにもない、果てしなく続く真っ白な空間。昨日と同じだとすぐに気がついた。違うのは、すでに目の前に雨夜がいるということ。
また雨夜が出てくる夢を見るとは思わなかった。頭の中で「これは夢なんだ」と認識している不思議な感覚。
昨日は座り込んでいた雨夜が、今日はひとりでポツンと立っている。教室での距離と同じくらい。数メートル先で、なにも言わずにじっと私を見つめている。
もしかしたら、私の記憶違いなんじゃないかと思っていた。だって、ほとんどしゃべったこともないはずのクラスメイトが夢に出てくることなんてそうそうない。
けれどやっぱり、昨日ここに現れたのも、今目の前にいるのも雨夜だ。私は今日一日、雨夜のことを目で追っていたからわかる。
「……雨夜、だよね」
例えるなら、星のない夜の暗闇。そんな色をした雨夜の瞳が動いたのを私は見逃さなかった。昨日は会話をしなかったけれど、やっぱり彼はクラスメイトの雨夜なんだ。
なにもない空間で、私の声はきちんと響いた。雨夜はなにも返さないで、私のことをじっと見つめている。
「またここで会うなんて思わなかったよ」
私のつぶやきに、雨夜はやはりなにも言わない。
学校では、男子たちが談笑する輪の中にいつもいるけれど、自分から積極的に話をするタイプではないと思う。
雨夜も私と同じように夢の中でしゃべれるのだろうか。それに、これが昨日の夢の続きなら、雨夜だって私に会ったことを覚えているはずなのに、どうしてなにも言ってくれないのだろう。
「ねえ、なにかしゃべってよ、雨夜」
昨日と同じようにゆっくりと雨夜に近づく。動じない雨夜はただぼんやりと私のことを見つめているだけ。
今朝、学校で雨夜と一瞬目が合ったことを思い出す。現実と夢は違うってわかっているはずだけれど、胸の奥がドクドクと鳴り始める。変な夢。気にしすぎて昨日と同じような夢を見てしまったのかもしれない。