真夜中メリーゴーランド
「……宮川那月(みやがわ なづき)」
あと数歩で彼に手が届くという距離になったところだった。ずっとこちらを見ているだけだった雨夜が突然声を出したものだから、びっくりして思わず固まってしまう。
ミヤガワナヅキ。私の名前だ。
「……私の名前、知ってたんだ」
「まあ、同じクラスだしな」
表情を変えずに雨夜がそう答えた。確かに、同じクラスなんだし名前くらい知っているだろう。でも、こうして面と向かってしゃべるのはほとんど初めてだ。席も近くなったことはない。
基本無口な雨夜は、こんなふうに人と会話をするのか。低くも高くもない、ちょうどいい高さの声だ。
「雨夜ってそんなふうにしゃべるんだ」
「なんだそれ、馬鹿にしてんのか」
クスリとも笑わない雨夜の表情からは、なにを考えているのか読み取るのは難しい。今日一日雨夜のことを気にしていたけれど、私が見ていた限りでは雨夜は誰かの言葉に受け答えをする程度でしか声を出していなかったと思う。授業中にあてられることもなかった。
「だって、いつも自分からしゃべるようなタイプじゃないでしょ?」
「しゃべる必要がないからな」
「私気づいたんだけど、雨夜って授業中にあてられることもないよね」
「学年一位を取り続ける代わりに、あてないでくれって言ってあるんだよ」
「え、雨夜って学年一位だったの?」
突然黙り込んだ雨夜が、ふと私から視線をはずしてくるりと後ろを向いた。長い襟足を見つめながら、歩きだす雨夜について歩く。三歩分の距離を取りながら。
雨夜と話すこと自体、本当はけっこうすごいことなのだ。これが現実だったら、女の子たちに「どうやって仲よくなったの?!」と詰め寄られてしまうだろう。
クールでほとんど自分から話しかけない雨夜は、男子はともかく女子となんてまったく話さないのだ。そういうミステリアスなところが、逆に女子人気を生んでいるんだろうけれど。