真夜中メリーゴーランド


「購買戦争に負けたー」


お昼休み、お弁当を食べる時間。聞き覚えのある台詞を言いながら悔しそうな顔をしてトボトボと歩いてきた晴太が、迷いなく私と杏果のもとへやって来た。


「今日は優雅に午後から登校ですか、晴太くん」


杏果がイヤミっぽくそう言うと、晴太はそれを無視してどかっと椅子に座る。目を引く茶髪と着くずした制服。風紀検査で何度も引っかかっているみたいだけれど、一向になおす気配はない。おまけに堂々と昼から登校してくる始末だし。けれどこんな奴でもいちおう、丸っとした目が子犬みたいでかわいいと女子の中で人気を博してやまない。ルックスだけじゃなくて誰にでもフレンドリーなところが好感度を上げているんだろう。

杏果も私も、あきれてはいるけれどそんな晴太のことが案外好きだ。それに、真面目な晴太なんて晴太じゃない。


「だってねみーんだもん、しょうがねえじゃん」

「こんな奴が特進なんて信じたくない」

「それより焼きそばパン買えなかったんだけど、俺の昼めし……」


杏果の言葉を無視してうなだれる晴太。

私たちのクラスはいちおう学年でも成績のいい人が集められた特進クラスだ。晴太はこんなに不真面目だけれど、なぜか勉強だけはすごくよくできる。そのおかげでなんとか特進クラスにいるらしい。

晴太から進路の話を聞いたことはほとんどと言っていいほどない。チラリと聞いたことがあるのは両親とも代々医者の家系で、晴太もその道に進まなくちゃいけないということ。ということはもともとの地頭がすごくいいのか、実は学校じゃないところでものすごく努力してるのかって話だ。だって晴太はこのクラスでもかなり上位に食い込む成績優秀者だから。

一件すごく明るくてフレンドリーな晴太だけど、意外と自分のことを人に話すのは苦手なのかもしれない。いろんなグループを渡り歩いているような奴だし、誰かひとりと特別仲がいいということもなさそうだ。私と杏果は無理に追及したりしないから、晴太にとって居心地がいい存在なんだろう。

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