愛しのエマ【完】
「奈緒さんにはお世話になりました」
「いいえ、私はそんな……」
「奈緒さんがいなかったら、僕は会社を辞めてました」
「それはないと思います」
「いや、毎日奈緒さんに会えると思って頑張りました」
「エマさんの力です」
副社長はそれには答えず
箸を置き
端整な顔を私に向けた。
「来週……エマがやって来ます」
「エマさんが?」
来日するんだ。
副社長を追って日本に来る。
「準備が整ったので、本当は僕が迎えに行く予定だったけど、友人に頼みました。僕のマンションで暮らします」
副社長のマンションで暮らす。
もう誰も邪魔できない。
『おめでとうございます』って言いたいけれど
喉に何か引っかったように
声が出なかった。
「エマに会ってもらっていいですか?」
「私がですか?」
「彼女も奈緒さんに、ご挨拶したいと思いますよ」
いきなり
殴られたらどうしよう。
そんな想像をすると
なぜか笑ってしまった。
私が笑ったので
副社長はOKサインと見たようだ。
「では、よろしくお願いします」
そう言われて
私は「はい」と、返事をした。