シンシアリー
「あの・・先程この部屋から出て来られた方はどなたですか?私、初めてお目にかかったと思うのだけれど」
「そうでしょうね」と言いながら、クリストフ宰相は、再びレティシアたちの方へ歩いてきた。

「あの者はラビアラ王国の外務大臣です」
「ラビアラ王国?」
「はい。実は、ラビアラとは運河の使用権を巡って対立している所なのです」
「まあ。そうだったの」
「しかし、両国にとって納得のゆくよう、話し合いを重ねたおかげで、ようやく折り合いがつく目途が立ちました。ですので、王妃様はどうかご心配なさらずに」
「そう。お気遣い、どうもありがとうございます、宰相」
「いえ。それでは私はこれで」

慇懃に挨拶を済ませると、今度こそはという感じでスタスタと歩いて行ったクリストフ宰相を、レティシアは止める事無く見送った。
そしてクリストフ宰相の姿が見えなくなった途端、レティシアは「ユーグ」と言った。

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