ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「さあ、突っ立ってないでもっとこの子を良く見てよ。見れば見るほどこの子の素晴しさがわかるからさ。ほらほら」

とニコニコと声を上げる所長に背中を押されて、僕は彼女の前に立った。

「この子の人間らしいところは見た目だけじゃないんだ。ちょっと手首を掴んで握り締めてみてくれるかい」

と声を掛けてくる所長。言われるままに白い布の端から覗く手首を掴んだ。

「わっ、ホントに人の手首みたいだ」

ちょうど体温ほどの温もりを感じる手首を、力を入れてギュッギュッと握り締めてみた。ちゃんと骨格があって周りに肉が付いている感じだし、肌の柔らかさも丁度いい。しかも脈のようなトクトクという感触もはっきり伝わってくる。

「脈もあるんですか」

「そう。この子のカラダには中枢部の熱を全身に行き渡らせて放熱させる為の循環ポンプが付いているんだ。ちなみに動力源は燃料電池なんだけどね」

「燃料電池…」

それは聞き覚えがある。と所長が笑顔で話しかけてきた。

「水の電気分解の逆で、水素と酸素から電気と水を生み出す装置だよ」

と所長が、彼女の横に並んで肩に手を置きながら続けた。

「もっと説明っぽく言うと、燃料のメタノールから触媒を介して取り出した水素と、空気中の酸素を反応させるんだ。発生した電気はバッテリーに充電されて、水は表面冷却装置に回されて、まるで人が汗を掻くように放出されるんだよ」

「へえ、汗を掻くように」

ロボットの体が汗を掻くとは何だか不思議な感じだ。

「だから走った時とか、燃料電池がフル稼動した後には、放熱の為に鼓動も早くなるし汗もたくさん掻くわけさ。ちゃんと苦しそうな表情をしてね」

と顔を顰めて見せる所長。

「へえ、額に汗する苦しげな表情も出来ます、ってコトですか」

ここまで人間そっくりに作り込まれていれば、それぐらい難なく出来そうだ。

「もちろんだよ」

と所長が、クルッとこっちを振り向いた。
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