ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「じゃあ広海君、始めようか」

「そうね。久しぶりね」

と嬉しそうに頷く広海君。彼女が僕に微笑み掛けてくれたのはいつ振りだろう。カウンターの向こうでグラスを磨くマスターを遠目にグラスを重ねて、広海君との二人の時間が始まる。

「…」

ダウンライトの光がカウンターの上を丸く照らし出す中で、暫らく黙って料理を口へと運んだ。

「ねぇ先生」

と、広海君がおもむろに口を開いてきた。

「私、わかったの」

え?わかったって、何が?

「ロイのプログラムを作り直すのに使ってた、ミライの目のデータを見てわかったの」

と手を止めてこっちを向く広海君。

(?)

と、広海君が手を止めたまま、僕をまじまじと見つめて口を開いた。

「ミライの目には、いつも私を気に掛けてくれてる先生が映ってた。先生はずっと、私を見ててくれてたのよね」

と照れたようにちょこんと首を傾げる広海君。

「そうか、わかってくれたのか!」

ミライの目には映ってたんだ、広海君を想う僕の姿が!

「そうだよ、僕は君をずっと見てたんだよ」

良かった。傍で見ていたミライの目が証明してくれたんだ。
< 284 / 324 >

この作品をシェア

pagetop