魔王と王女の物語 【短編集】
カラフルなキノコは大抵毒があるし、地味なキノコは大抵食べれる。

リロイが弓を手に森の奥に入って行くと、ラスは自生しているキノコを集めて回っていた。


「これ可愛いっ」


赤いキノコには白い斑点があり、次々にカゴに入れて行く。

強大な王国の王女として何不自由なく暮らしていたので生活力は今まで全くなかった。

だが少しずつではあるが料理を覚え、洗濯もして、自活力は向上しつつある。


「コー、キノコ採ってきたよ」


「はいご苦労様でした!……えーとチビ?このカラフルなキノコたちは何かな!?」


「可愛いでしょ?食べれる?」


「食べれません!それにこいつ…こいつはまさか…!」


枯れ枝を集めて火をおこしていたコハクは、カゴの中からやけに細長い黄色のキノコを手にして鼻息を荒くした。


「コー?」


「これはまさか…催淫効果のある希少なキノコじゃねえか…!え?ま、待って待って、これをオレに?いやこんなの食わなくても必要ない…え?チビからの夜のお誘い!?あのガキ追い払わなくちゃ!」


…何やら訳のわからないことを口早にまくし立てる魔王の様子にぽかんとしていると、リロイがウサギやイノシシを手に戻って来た。


「なに悶えてるんだよ気持ち悪い」


「てめえは今夜は街に泊まれ!」


「わあリロイすごいっ、たくさん穫れたね」


陽が暮れて辺りはもう暗く、一応ラスが襲われることがないようにとこっそり魔法をかけたコハクは、リロイの手から獲物を奪い取っててきぱきと捌いていく。

グロテスクな光景だったがラスは目を逸らさずいつかあんな風にできたらと思いながらコハクの横顔を見つめた。


…本来は邪悪な魔王としていつか現れる勇者に倒される運命にあった男。


小さな頃自分の影から突然話しかけられたあの日のことは今でも忘れない。


「ん!?ち、チビ…そんな見られると緊張すんだけど…」


「なーんでもないよっ。リロイ、お話しよ」


めらっとする魔王の側から離れたラスがリロイの隣に移動する。

この幼馴染と魔王はとにかく仲が悪いが今は一緒に行動しているーー

それが本当に嬉しくて、リロイの腕に抱きついた。
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