お見合い結婚時々妄想
後片付けを済ませて、祥子が持たせてくれたマドレーヌを食べながら、祥子が今、妊娠していることを伝えた
それを聞いた母は


「何でそれを早く言わないの!」


と怒りだしてしまった


「いつ産まれるの!?」
「2ヶ月後……です」
「性別は!?」
「あ……」
「聞いてないの!?」
「聞いてない……です」
「今すぐ聞きなさい!!」



母に怒られた
20数年振りに
それを思うと笑ってしまった


「慎くん、笑い事じゃないのよ!」


済みませんと謝りながら、祥子に電話した
祐二郎を見てみると、肩を震わせながら笑いを堪えていた
母は、もうっと言いながらお茶を煎れなおしている


「はい、皆川です」
「もしもし祥子?僕だけど」
「慎一郎さん?どうしたの?」
「あのさ、お腹の子の事を母さんに話したら、性別はどっちだって言われて……ごめん、僕も聞かなかったから」
「そうそう。慎一郎さん聞いてくれないから、どうでもいいのかな?って思ってたの」
「そ、そんなことは……」
「嘘ですよ。それどころじゃないのは分かってたから、落ち着いたら言おうって思ってたの」
「そう。それで、どっちか分かってるの?」
「うん。女の子だよ」
「女の子?」


母に目をやると、満面の笑顔だった


「そう、女の子。慎一郎さん、どっちが良かった?」
「健康なら、どっちでもいいと思ってたけど。女の子かぁ。それは、可愛いだろうね」
「慎一郎さんに似た方が、綺麗な子になるんだろうけど」
「いや、僕は祥子に似た可愛い子がいい」
「またそんなこと言って。まだお義母さんの家にいるの?」
「うん。今、祥子のマドレーヌ食べてるところ。母さんも祐も美味しいって喜んでるよ」


2人を見ると、まだマドレーヌを頬張っていた


「よかった。ゆっくりしてきてね。それと、お義母さんに……」
「……?……うん、分かった伝えとくよ。じゃ」



電話を切ると、母はニコニコして、祐二郎はニヤニヤして僕を見ていた


「女の子だって、母さん」
「そう。じゃ可愛い服を買わなきゃね」
「そうだね……祐、なんだよ?」


僕が聞いてもまだニヤニヤしている


「何か言いたいことがあるんなら言ったら?」
「『僕は祥子に似た可愛い子がいい』って……」


我慢できなかったのか、声を出して笑いだした


「まさか、兄貴からそんなセリフが聞けるなんて、思いもしなかった!」


まだ笑い続ける祐二郎を横目で見ながら言ってやった


「お前も家族が出来たらわかるよ。そういえば、いつか父さんが言ってたけど、彼女を父さんに紹介するとか言ってなかったか?」


祐二郎はびっくりしてむせたのか、咳き込んでいる


「そうなの?祐くん」


母も興味津々に聞いてきた


「今度、紹介するよ。祥子さんが出産する前にでも」


へぇと笑って、祐二郎の頭を乱暴に撫でた


「もう、やめろよ!」
「結婚は?いつ頃?」
「……まあ近いうちに」

顔を真っ赤にしている弟が可愛くて、また頭を撫でた
祐二郎は嫌がっていたけれど


「2人とも、幸せでよかった……」


母がしみじみとそう言った
ああ、そうだった
祥子からの伝言、伝えないと


「母さん、来週末空いてるかな?」
「来週末?空いてるけど。どうしたの?」


何?と首を傾げる母に言った


「祥子が、今度は僕達の家に来てくださいって。父さんも呼んでるから、一緒にご飯でもどうですか?って、言ってるんだけど……」


母は俯いてしまった


「祐、お前はどうする?」
「来週。何も予定ないから大丈夫」
「そうか。それなら彼女連れてきたらどうだ?」
「え?まぁ、聞いてみるけど」
「あ、照れてる」
「うるさいな。向こうの都合がよければ連れて行くよ」
「ああ、父さんも喜ぶよ」


母を見てみると、まだ迷っているみたいだった


「母さん、祥子の手料理食べに来てくんないかな?本当に美味しいから」
「でも、博太郎さんは……」
「父さんは母さんが一緒で構わないって言ってるらしいよ?」
「本当に?」
「うん。さっき祥子が言ってた」
「……じゃ、お邪魔しようかしら?」
「ありがとう。祥子に会ってやって。きっと喜ぶから」


母は嬉しそうににっこり笑った


そうして過ごしているうちに時間が経ち、そろそろ帰ろうかと、腰を上げた
祐二郎は、食べきれなかった母の手料理をちゃっかりと貰って、僕は来週迎えに来るからと母の家を後にした
3人とも


「またね」


と言って別れたのが、なんだか嬉しかった
家に帰ると、祥子がと出迎えてくれた


「ただいま、祥子」
「お帰りなさい。お義母さん、お元気だった?」
「うん。すっごく元気だった。昔のまま、変わらなかったよ」
「そう、よかった」


リビングのソファーに2人並んで座って、祥子のお腹を撫でた


「お祖母ちゃんに会って来たよ。来週は、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが2人で会いに来るからね」
「あら、良かったねぇ」


お腹を撫でている祥子の手を握った


「祥子、ありがとう。君のお陰で母さんに会いに行けた」
「私は背中を押しただけよ?」
「でも、祥子が背中を押してくれなかったら僕は母さんに会いに行けなかったよ。本当にありがとう」


祥子はにっこり笑って首を横に振る


「ねえ?慎一郎さん、お義父さんなんだけど」
「父さん?」
「うん。お義父さん、お義母さんのこと、まだ……」
「愛してるだろうね」


祥子がびっくりした顔をした


「そのくらい分かるよ。実際、母さんと離婚してから父さんが誰かと付き合ってる気配はなかったし、今日母さんの話を聞いてたら、絶対そうだと思った。それにしても、よく気付いたね。祥子」


祥子は苦笑して言った


「私もなんとなくそうだと思ったから、お義父さんに聞いちゃったの」
「えっ?聞いたの?直接?」
「うん。そしたら、お義母さん以上の人はいないって、おっしゃってた」
「そう」
「ねえ?慎一郎さん?」
「ん?」
「もし、お2人が……」


祥子の言いたいことが分かった
だから、僕はふっと笑って祥子を抱き締めた


「あとは2人に任せよう。どんな選択をしようと、僕の両親には変わりないんだから。まあ、2人が幸せになってくれればいいと思うけどね」
「そうね」


祥子が僕を見上げたので、軽くキスをした
でも、それだけじゃ終わらなくてキスがどんどん深くなっていく
唇が離れて、祥子の耳元で囁いた


「ごめん祥子、いい?」


祥子は僕の肩口に額を当てて、小さく頷いた
祥子を抱き上げて、寝室へ行きベッドに横たわらせた

祥子が妊娠してから、どうしても我慢が出来ない時は抱いていたけど、自重していた
お腹が目立つようになってからは本当に抱いていなかった
大きなお腹の祥子を見ると、申し訳ない気がしたけど、今日はどうしても祥子を抱きたかった
そっとお腹に手を当てて言った


「優しくするからね」


すると、祥子が笑ったので僕も笑った
久しぶりに祥子を抱いて、身も心も満足出来た
隣で寝ている祥子を抱き締めた


「君がいない人生なんて考えられないよ、祥子」


結婚に夢も希望も持ち合わせていなかった僕に、結婚を決意させた
母に会おうとも思わなかった僕に、会いたいと思わせて、会いに行っていいと背中を押してくれた

そして……


「名前、考えないとな」


お腹を撫でると動いたので、思わず笑った


「分かってるよ。ちゃんと考えるからね。女の子だから、可愛い名前にするよ。だから楽しみにしてるんだよ」


この子の名前を考えるのを想像するだけで楽しくなった
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