お見合い結婚時々妄想
「お待たせしました。コーヒーで良かったかしら?」
「お母さん、ありがとう。悠太くん、コーヒー好きだもんね」
「はい。ありがとうございます」


妻がコーヒーを出していると、彼氏とやらは頭を下げ、持って来た手土産を妻に差し出した


「これ、お口に合うか分かりませんが、食べて下さい」
「あら、気を使わせて悪いわねぇ。遠慮なくいただきます。慎一郎さん、立ってないで座ったら?慎一郎さんが立ったままだと、上田くんがいつまでたっても座れないじゃない」
「……上田くん?」


僕が彼氏とやらを見ると、慌てて頭を下げた


「あ、自己紹介が遅れました。初めまして。上田悠太といいます。漢字は、上下の上に田んぼの田。悠久の悠に太い、です。祥希ちゃんと同い年で、同じ大学に通ってます。よろしくお願いします」


祥希ちゃんだと?
だが、深々と頭を下げる彼氏とやらに嫌な感じはないな
いやいや、まだ早い
まだ自己紹介されただけじゃ人となりは分からない
そう思っているのを悟られないように、また営業スマイルで彼氏とやらに声をかける


「初めまして。祥希子の父です。どうぞ座って、コーヒーをどうぞ」
「はい。ありがとうございます」


僕がソファーに座ると、彼氏とやらもソファーに座った
明らかにちょっとホッとしたような顔をしている
その様子がおかしいのか、祥希子はクスクスと笑っていた


「悠太くん、緊張しすぎ」
「そんなの当たり前だろ?そう言う祥希ちゃんは笑いすぎ」


何だろうな、この微笑ましい光景は
出来れば、僕のいないところでやって欲しいもんだ
それにしても、祥希子のこの表情
こんな顔は、ここ数年父親である僕には見せてはくれない顔だった
僕はそれを認めたくなくて、妻に話しかけた


「祥子は、彼の名前は知ってたの?」
「うん、祥希ちゃんから聞いてたから」
「じゃあ、教えてくれてたら良かったのに」
「あら、言ってなかったっけ?」
「聞いてなかったよ」
「もう言ったつもりでいたから、知ってると思ってた。ごめんなさい」


ふふっと笑って、妻が僕の隣に座る
祥希子と彼氏とやらの上田くんを見ると、2人も顔を見合わせて笑っていた

だから、僕の目の前でそんな光景は見せないで欲しいんだけど?

小さく息を吐いて2人に聞いた


「祥希子と上田くんは、付き合ってどれくらいなんだ?」
< 49 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop