お見合い結婚時々妄想
そんな中、口を開いたのは上田くんだった


「あの」
「ん?」
「おじさんは、F社の副社長をしてらっしゃるんですよね?」
「ああ。それが?」
「僕、F社に就職したいと思ってるんです」
「え?」


わざわざ彼女の父親と同じ会社に就職したいだって?
意味が分からない
どういうことだ?
もしかして、娘の彼氏だから雇って下さいって言いたいのか?


僕が怪訝な顔をしていると、上田くんは慌てて違うんですと言った


「あの、誤解しないで下さい。縁故採用してもらおうなんて思ってません。むしろ、そんな事で採用して欲しくありません」
「じゃ、何故F社に?他にも同様の会社はあるだろ?」
「祥希ちゃんの理想の人って、おじさんだと思うんです。だから、ちょっとでもその理想の人に近づきたくて。同じ会社で働いたら、祥希ちゃんの理想に近づけるかなって……」
「は?」


今なんて言った?
祥希子の理想の人が僕だって?
そりゃ確かに小さい頃は
「お父さんと結婚する〜」
とか可愛いことを言っていたが、思春期ぐらいからは世間の父親同様、冷たくあしらわれていた様にしか思えないんだが?


僕がびっくりしているのが分かったのか、上田くんは困ったように続けた


「あの、僕が言っていいのか分からないんですけど、祥希ちゃん、学校では知らない人がいないくらいのファザコンですよ」
「ファザコン?祥希子が?」


信じられない
どちらかと言うと、次女の祥瑛子の方がまだ僕に甘えてくる感じだ



「祥希ちゃん、不器用だから祥瑛ちゃんみたいに甘えられないかもしれないですね」


そう言った上田くんにびっくりした
確かに祥瑛子は末っ子だというのがあるからか、甘え上手で要領がいい
祥希子は何でもソツなくこなすので器用に見られがちだが、実は繊細で不器用なところがある
彼はそれに気付いていてくれていたのか


僕はフッと笑って言った


「まあ、まだ卒業まで時間があるんだからよく考えて決めた方がいい。うちの会社より君に合っている会社があるかもしれない」
「そうかもしれないですけど」
「もしそれでも、うちの会社を受けたいと言うんなら、受ければいい。うちに必要ないと思ったら容赦無く不採用にするし、必要なら採用する。それ以上でもそれ以下でもないよ。意味分かるか?」


それは、祥希子と付き合っているからと言って優遇することもないし、だからと言って不採用にするつもりはないと言うこと


僕の言った意味が分かったのか、上田くんは安心したような顔をした


「はい。その時はよろしくお願いします」


頭を下げる上田くんを見て、祥希子はいい男と出会ったんだなと嬉しい反面、寂しさも感じていた
< 52 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop