Marriage Knot
私は、目元に手をやった。そんな私を心配そうに見つめていた桐哉さんが、近づいてきた。そして、ためらうことなく私を抱きしめた。
「……何があったんですか、結さん。僕だけに話してください。僕を、信じて」
「放して、桐哉さん。いいえ、副社長。放してください。優しくしないでください」
「嫌です」
副社長は、ますます私を強く抱きしめる。そして、私の髪をやさしくなでた。
「話してくれるまで、放しません。僕の結さん」
それを聞くと、今までこらえていた涙が、一気にあふれた。今はもう遠いけれど、この副社長の腕の中のようにあたたかい記憶が涙になって、流れ落ちた。しずくの一粒ごとに、私の恋が映っている。
「レッスンは終わりにしましょう。そして、別の方とクロシェを楽しんでください。私も忘れますから、副社長も、戯れは……やめてください」
「戯れ?僕が、このレッスンを遊びだと思っていたと?結さんとの時間を、無為に過ごしたとおっしゃるのですか?」