『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
…あゝ眠い。眠すぎる。
昨日の恋バナのせいで
全くもって眠れなかった…。


よりにもよって今日は
山登りからのキャンプファイヤー。
ハード過ぎるっ。
日差しも強いし目が痛い。


「フジヤマー。」
背後からグイっとリュックを引っ張られた。

「ちょ、重い…」

「ねー。俺のこと引っ張ってって」

「なんで私が!こっちの台詞だっつーの」

「えー、だってお前肩幅逞しいじゃん。」

ムカッ!
やっぱり好きじゃない!

「あ。怒った?可愛いなぁ」

「え?」

「可愛い、可愛い。
だから、引っ張ってって」
またいつもの無邪気な顔で笑った。


…く。悔しいけど…その笑顔が好き。

一瞬、『可愛い』って言葉にドキッとした。
それもまた、悔しかった。


「あんたなんて引っ張ったて、な〜んも得しないじゃん!」

「っおい…。じゃあ誰なら得なんだよ。」

「イケメン。」

「俺じゃん。」

「アホ」

私のリュックから垂れる暇を掴んでいるベンの腕を上からチョップして切り離した。

「っ痛ぇ。」

「ざまーみそづけ。」

「ふるっ。」

ムッキーー!いちいち腹立つわー!
こんな奴置いてってやる!

ベンが追いつかないように出来るだけ足を早く動かした。






あとどれくらいで頂上なの?
足が重い。

ちょっと張り切りすぎたかな…。



足がもつれて石につまづいた。

ヤバっ。転ぶ‼︎

グイっ。と腕を掴んで体を起こしてくれたのは、さっきまでずーっと後ろにいたはずの
ベンだった。

「ありがと。セ…セーフだね」

「それアウトって言うんだよ」

「ずっと後ろにいたのに、いつの間に?」

「おまえが遅せーの。」
ったくいちいち!一言余計だっつーの!

掴んだ私の左手をそのまま
ベンは自分の背中に私の手を回した。


…ん?なに?


そしてベンの長い指が
私の腰に触れた。

「ちょ、ちょっとー!」
ベンを突き飛ばす。


一瞬なにかと思ったけど、
フラついた私の体を支えてくれようとしたのだとわかった。

ちょっと変な態度とっちゃったかな…?



「なんだよ!」

「大丈夫!1人で歩けるから」

「あっそ。」


汗ばんだカラダを触られるのが恥ずかしかった。


1年生の時の体育祭を想い出す。


あの時はそんな事思わなかったのに…な。

「真凛、それが『好き』って言うんだぞ」
千秋の言葉が頭をよぎった。


ベンの背中を見るのが
なんだか苦しかった。

…こっち向いてよ。


頂上に辿り着くよりもベンが遠く感じた。






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