『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
リハビリセンター近くの喫茶店へ移動すると
未来が重い口を開いた。

「前田はサッカーの名門校からスカウトが来てて◯◯学園に入学が決まってたの。
でも、卒業式から少しして交通事故に遭って…前田の左足は麻痺が残っちゃったらしくてね。日常生活では、たまに調子良くないくらいで問題ないらしいんだけどスポーツは…」

「…事故。なんで…そんな…」

「中学校の正門側にある坂あるじゃん?あそこを自転車で下ってたみたいでね。
坂の終わりって、ちょうどカーブになってるけどT字路になってたじゃない?」

「うん。車も通る道にぶつかるよね」

「そうそう。そこでね、車と接触しそうになって…」

「接触しなかったのね、、あの坂を下った勢いで接触してたらこんなんじゃ済まないもんね」

「真凛、早とちりしないでちゃんと聞いて。
車側は前田に気付いてハンドルをきったの。
前田も車に気付いて避けようとしたから車には接触しなかったけど転んだ拍子に体中を強く打ってね…それで後遺症が残ったの」

未来の【ちゃんと聞いて】という言葉に
懸命に耳を傾けた。
ひとことずつ、きちんと理解しようとした。
鳴り止まない心臓のバクバクが、たまに邪魔するけど聞き逃さないようにしっかり聞いていたのに…
未来の最後の言葉は衝撃過ぎて私は自分の耳を疑った。

「車がハンドルをきった反対側に歩行者がいて壁と車に挟まれたの」

「…それでその歩行者は…どうなったの」

「顔に大きいケガをしてね。
傷痕が今も残ってる」


「じゃぁ、生きてるのね。」

最悪の事を考えてしまっていたから
少しホッとした。

「それが、前田の今の彼女なの。
前田は頭と背中を強く打ったせいで
左足のケガで入院期間も長かったから…
それからはサッカーも辞めて、進学も諦めてね。でも、自分がサッカー部だったことは覚えてないのよ。」

「…え?」

「同窓会の日、真凛のこと知らないって言ったのは意地悪でもなんでもなくて…
事故の日から数年前までの記憶がなくなっちゃったみたいなの。」


記憶が…ない…⁈


嘘でしょ!?


「徐々に回復はするらしいんだけど、
まだ所々しか思い出せないみたいなの。」


私が違和感を感じて…
そして知りたかった空白の10年間。

途切れていた糸が
次々と繋がっていくかのように…?







< 35 / 59 >

この作品をシェア

pagetop