『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
未来に連れられて来た場所はリハビリ専門の療養施設だった。


「あそこ、見て」

未来に見せられたのは、間違いなくベンの姿だった。


彼女が何を言いたいか理解は出来なかったけど、これが良いことではないというのだけはのみこめた。


テラスのベンチに座るベンの横には小柄な女性が穏やかに微笑んでいた。


「前田の横にいるのが彼女だよ」

ベンの彼女だと紹介された女性は
色白で小柄で、今にも壊れてしまいそうな人形のような人だった。


「そ、そうなんだ。もういいよ。いこ」

今にも逃げ出したくなったのは
彼女がとても可愛くて…私ではとうてい敵わないと思ったからだった。

「真凛、まだ好きなんでしょ?だからこそ
ちゃんと見て!」

未来の強い口調にズキンと胸が痛くなった。

多分それは
未だにベンのことが忘れられないのも
逃げ出したくなったのも
全部見抜かれていたから。


ここに何しに来たのか
もう一度考え直してみた。


そう。私は10年間気持ちを殺して
かっこつけて逃げて来た。
そこに終止符を打ちに来たんだ。

ちゃんとこの目で見ないと!



もう一度2人の姿に目をやった。

室内に戻ろうとする2人の後ろ姿にショックを受けた。


再開した時には気づかなかったけど…
「ベン、足どうしたの?」


「中学卒業してすぐに交通事故に遭って、それからずっと…」


よく見ないとわからない程度だけど
ベンは足を若干引きずるように歩いていた。


私は何も知らない。
未来や千秋はどうして教えてくれなかったんだろう。

私がベンのコトを聞かなかったから?

…ぃや。違う
もっと深い何かがきっとあるんだ。


逃げちゃいけない。ちゃんと受け止めなきゃ


そう思った。


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