『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
長かった夏休みも終わると
毎日体育祭の練習ばかりだった。


クラス対抗のムカデ競争では
男女が交互に並ぶから
ベンの前後は
クラスの女子でも取り合いになってたけど
先生の意向で背の順に並ぶことになり
私はベンの前になった。


「フジヤマ肩幅デカイな」

ムッカァー!
女子に向かって
肩幅デカイとか言わないでよね!

「うるさいなぁ〜、あんたは強く掴みすぎ」

「黙れ!」

痛っっっっっ!ぐ、苦しぃぃ〜〜

ヘッドロックするベンの腕をタップした。

「殺すきかぁ〜‼︎私、女子なんですけどっ!」
振り返ろうとしたらバランスが崩れ
ベンと一緒に地面に尻もちをついた。


「痛ってぇ」

「ご、ごめんっ」

また怒られるかと思ったのに
ベンは笑った。


綺麗な笑い方。


この笑い方、好きだな…。




「なに?見惚れてんの?」


「な な 何言ってんのよー!
んなわけないでしょーぅがぁー‼︎」




正直なところ図星だったから
急に顔が熱くなった。




でも見惚れてたのは
普段あまり見せない笑顔が綺麗だったから!

ただ、それだけ。







体育祭当日は運良く晴天。

とにかく盛り上がるのはクラス対抗の種目。
ムカデ競争に騎馬戦
そしてなんといっても1番盛り上がるのは
クラス対抗リレーだ。


ムカデ競争は7クラス中3位という
まずまずの結果に終わり
いよいよ午前中最後の種目、
騎馬戦が始まった。


7クラスのトーナメント方式で
1回戦目は男子のみの試合。
2回戦目は女子のみの試合。
そして決勝戦は男女混合の試合だ。


私達の3組は圧倒的強さで決勝戦をむかえた。

開始の笛が鳴り
一斉に騎馬が動き始める。

決勝戦ともなるとみんな気合が入っていた。

私の乗る騎馬とベンの乗る騎馬は
作戦通り相手の騎馬を挟み打ちしながら
次々とハチマキを奪っていった。


「あ!危ない!」誰かが叫んだ瞬間


対面にいたベンが視線から消えて
自分の騎馬が崩れたのがわかった。


「大丈夫?」すぐに心配してくれたのは
騎馬になってくれていた久美ちゃんだった。


立ち上がった瞬間、
足首にズキッと痛みを感じた。

「大丈夫、大丈夫!みんなも大丈夫?
ったく男子の勢いは凄いよねぇ。」

痛がったら、みんなに悪い気がして
思わず隠しちゃったょ。


「そうだよね、相手が女子でも遠慮なしだもんねぇ」


左足をかばうのを、みんなにバレないように
自分の陣地へと戻った。




勝負は3組に軍配が上がり
私達のクラスは優勝した。



クラスの席に戻ると
みんなから活躍を褒められるベンが笑っていた。

私が席に戻ったのに気づくと
「フジヤマ〜、弱すぎ。」と、ベンが言った


おのれ〜〜‼︎
少しは心配でもしてくれてもいいのに
『弱すぎ』とか。


優しくない奴。




昼食時間は、騎馬戦での勝ちの話で
クラスメイトの話はもちきりだった。





いよいよ、最終種目の
クラス対抗リレーが始まると
学校全体の応援もボルテージが上がり、

クラス代表の男女6人が入場すると
益々、応援は盛り上がっていった。



私の順番は第5走者。
アンカーのベンには1番にバトンを渡したい!




スタートの合図がなる。


第1走者は3番で次の走者にバトンを託した。
第2走者はそのままの順位でキープし、
第3走者はひとつ追い抜かされての到着、
第4走者は祐介。
サッカー部でも3番以内に入るくらい足が速い祐介は、3人抜きして2番で私に繋いでくれた


抜きたい!
1番でベンにバトンを渡したい‼︎


あと少し、あと少しなのに!
前の人の背中が少しずつ大きくなる。


まだ追いつかない…



その時左足に鈍い痛みを感じた。


さっき騎馬戦で落ちた時のだと
すぐにわかった。


もー!こんな時に!


でも1番でベンに渡したい!


痛みを堪えて無心に走った。



ほぼ1番の子と同時到着でバトンを渡した。




走り終わると、
もう左足に力が入らなくて
コースから移動するのもツライくらいだった


『ベン、頑張って!』


声援が益々熱くなる。






…やった。勝った…


ゴールテープを切ったのは
ベンだった。



拍手喝采の中ベンの笑顔が輝いていた。


綺麗だな…




退場の音楽が流れた。



この歌と、ベンの笑顔が
すごくマッチしていて
また思わず見惚れてしまう…。



あ。ヤバっ。
また目が合っちゃった…


慌てて目を逸らして退場しようとすると
足の痛みが強くて
うまく歩けなくなっていた。


「…う〜。
みんな行かないでぇ。」


周りを見ると
応援席も選手も最終種目の感動の余韻に浸っている。



誰も気付いてくれないのね…

取り残されて行く自分に哀しくなった。


その瞬間、カラダがフワッと持ち上がったのがわかった。


「ちょ、ちょっとなに?」

「あ〜、うるせっ。
どーせ、騎馬戦の時に足を痛めたんだろ?
たかだか体育祭で張り切っちゃってさ。
おまえはバカかっ?」


顔が熱くなる。



足痛めたの気付いてたの?
あの時なにも言わなかったくせに。



「大丈夫だから、歩けるから!」

「黙ってろ」


照れ臭さと、
下から見上げるベンの斜め横から見る顔が
綺麗過ぎて何も言えなくなった…。



応援席までの距離は、なんだか長く感じた。



「ありがと」
席に座ると、ベンは何も言わずに
男子の方へ戻った。




「ちょっとー!
お姫様抱っこなんてされちゃって‼︎
めっちゃラブラブじゃーん‼︎」
と、すぐに寄ってきたのは久美ちゃんだった


「そ、そんなんじゃないから!
たまたまって言うか…そのなんてゆーのかな
男同士!うん、そんな感じ!」


私、なんでこんなに否定してるんだろう…
でも凄くドキドキした。
不覚にもベンのこと
カッコイイ。とか思っちゃったかも…

こんなふうに簡単に抱き上げたりするのは
友達だから…だよね?

それとも…
女の子として、ちゃんと見てくれてる?
かな…?




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