ブーケ・リハーサル
昼休み、もう一度、昨日のことを謝っておこうと思い、副社長室を訪ねた。

「失礼します」
「あ、高山さん」

　副社長は書類をデスクの端に置き、顔を上げた。ジャケットを脱いで、ワイシャツの袖をまくり上げている副社長は、ドラマのワンシーンのように様になっていた。

「昨夜、夜分遅くに失礼いたしました」
「そのことは気にしなくていい。おかげで映画の内容が分かったから助かったよ」
「いえ。以後、このようなことがないように気を付けます。これで失礼します」
「あ、待って。高山さん、お昼は？」
「これからですけど」
「なら、一緒に食べない？」
「いや、あの」

　なんと答えるべきかと思い、言葉を発しても中途半端な単語が出てきた。

「もしかしてお弁当？」
「いいえ、社食かコンビニで済まそうと思っていて」
「そう。なら外で一緒に」

　副社長は袖を直し、ジャケットを羽織った。

「さあ、行こう」

　私は行くなんて一言も発していないのに、一緒に食事することが決定している。仕方なく副社長の後に付いていった。
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